2016年7月11日月曜日

スパイト行動を解明

スパイト行動とは、自分の利益を犠牲にしてでも、相手に不利益を与えるための行動である。何故自分は損をするのにそんなことをするのか、一見不合理に見えるので経済学でしばしば話題になる。特に公共財のただ乗り(フリーライド)と絡めて議論されることが多い。だが実はこれを説明するのはとても簡単である。均衡状態は2つあるのだ。

島に100人の人間が住んでいて、利便性のために橋を作ったケースを考える。橋の建造費は埋没費用(サンクコスト)なのでここでは考えないものとし、橋の維持費は1日100ドルとする。橋を使うのは100人の島民だけで、彼らは毎日橋を使い、それによって1人1日1ドルの利益を得るものとする。

まず、理想的な社会を考えてみる。橋の使用料を1人1ドル徴収することにした。利益は100ドルで、維持費の100ドルは100人から1ドルずつ回収することでまかなわれる。以下の通り、コストとベネフィットが均衡していて持続可能だ。

理想
利益:1*100=100
使用料:1*100=100

次に、現実的な社会を考えてみる。橋の使用料を払わないものがいて、費用を回収できないケースだ。回収率は80%とする。すると、結果は以下のようになり不均衡が生じる。

現実1
利益:1*100=100
使用料:1*80=80

こうなると、維持費を払うためには橋を監視するか、徴収を厳しくするか、どちらにせよ使用料の値上げが必要だ。監視を付けるにも徴収強化にも費用が掛かるので、ここでは単純に数値のみを考える。回収率が80%で変わらないとすると、使用料は1.25ドルにする必要がある。値上げをした結果、新たな均衡が訪れる。

現実2
利益:1*100=100
使用料:1.25*80=100

ここまでが普通の経済学で、利益と負担の釣り合いが取れてめでたしめでたし、となる。ところが、社会に不公平を感じるものが多く秩序と正義を求めて団結するものが多い場合、スパイト行動が起こる。すなわち、「自分たちは高い使用料を払っているのに、フリーライダーたちがただで橋を使うのは許せない。橋を壊してしまおう」となる。合理的に考えると、ただ乗りする人がいたとしても橋を使えたほうがいいのでは?何故橋が使えなくなり自分が不利益をこうむるのにそんなことをするのか?と疑問がわく。だが実は、こうすることによって全体の均衡も保たれ、さらに善良な島民は得をしているのだ。橋が使えなくなると以下のようになる。

橋をなくす(スパイト行動)
利益:1*0=0
使用料:1.25*0=0

ここで80%の橋の使用料を払っていた人たちに注目すると、橋がある時は利益1ドル使用料1.25ドルで彼ら個人は毎日0.25ドルの赤字だったのに対し、橋がなくなると利益も使用料もゼロになり赤字がなくなる。橋が使えないのは一見不合理だが、実際は自分たちが得をする利己的で合理的な行動なのだ。

最後に、2つの均衡について考えてみたい。使用料を値上げすると均衡状態にはなるが、これが続くかはわからない。他にも払っていない人がいる。高過ぎて払いたくない。そういった声が増えて値上げする度に使用料を払う人が減り回収率が下がる恐れがあるためだ。維持費が足りなくなり橋のメンテナンスが出来なくなると橋は危険な場所になる。そうなると結果はスパイト行動をとった場合と同じになる。危険で使えなくなるのか、危険になる前に使えなくするのか。危険な場所を放置しておくと事故やスラム化の可能性もある。維持できないなら橋の撤去は合理的なのだ。

このように、スパイト行動は一見不合理に見えるが、実際は全体と個人の損益を均衡状態にするために行われるので、決しておかしな行為ではないのだ。問題を解決する時は、メリットデメリットを洗い出し均衡を考えるというやり方もあるのである。

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