バフェットよりソロスな理由

このブログのタイトルである「バフェットよりソロス」にはもちろん理由がある。これは彼らの実績や好き嫌いや人間性の話ではなく再現性の話だ。シンプルにバフェット氏の真似は誰にもできず再現ができない。これは才能の問題ではなく時代の問題だからだ。彼は幸運にもいい時代に生まれたというアドバンテージがあった。今の時代にはそれがない。バフェット氏とソロス氏の比較の前にまずは金持ちの歴史を考えてみよう。

金持ち、すなわち富豪の系譜は権力者から始まる。彼らは神のお告げを聞けたり水田管理を任されたりなど何らかの利権を司っていた。祭事を取り仕切っていた豪族や生まれながらの貴族などが初期の富豪と言える。人を集める力、カリスマ性を持った人たちと言っていいかもしれない。これらは能力次第の部分も世襲の部分もあり最終的には権力争いなので入れ替わりも激しかった。

権力争いはやがて所有の概念を生み出し貧富の格差の下地を作る。持つ者と持たざる者で秩序を保つために規律が整備され搾取の構造ができあがる。土地や作物を管理する地主と土地を借りて農業をさせてもらう小作という構図は所有権があれば自然と発生するものだ。二次産業がでてくるまではこの構造が続く。

食べ物に困らなくなり他のことをやりだすと所有の概念が拡張され資本家というものが生まれる。全てのものに持ち主が定められ富を生む資本を持っていればそれだけで豊かになれる。ただ持っていたというそれだけで人は富豪になれた。これは世襲の部分が多く不公平で庶民には不満が溜まるものだっただろう。自由と平等が叫ばれるのも無理はない。

第三次産業が発達し産業革命の時代ともなるとどこに資本を集めるべきかを決める投資という考え方が生まれる。資本にも上等なものと下等なものがあり選択と集中によってよりリターンを生む資本が好まれる。資本主義の誕生だ。こうなってくると全体として発展はするが資産の有無やその使い方によって個人の格差は拡大する。人をも個人の資産と見なしたのが奴隷だ。

発展した経済は新しい物や職業を作り出す。考えた人が偉くなる発明家の時代だ。良いところに目をつけて起業してそれを大きくしたのが大企業創業者でかつてはこれが王道であった。多くのモノやサービスが生み出されると大企業は生まれにくくなり資本需要<資本供給となる。そうなると株式市場も整備された現代では会社を大きくすることではなく株式上場がゴールとなる。最新の富豪スタイルは新興企業創業者ということだ。

時系列で見ると富豪は権力者(王族貴族豪族)、土地所有者(地主)、資本家、投資家、起業家と変遷しているのがわかる。スタイルを変えたり適応したりして生き残っている富豪も多いだろうが現代の富豪と言えば起業家となるだろう。富とは所有から生まれ人は所有することが大好きだ。社会主義が資本主義に駆逐されたのも社会主義は所有に制限があるからだ。

富豪の系譜は基本的には不可逆だが地主、投資家、起業家は現代でも通用する。土地はそもそも売ってくれなかったり買えなかったり自由に売買はできないし起業は誰にでもできるものではないが投資は違う。よって富の蓄積に一番最適なのは投資だ。では何故バフェットではなくソロスなのか?それは2人の投資スタイルの違いにある。バフェット氏はオーソドックスなインベスターだがソロス氏はよりトレーダー的側面が強いのだ。

バフェット氏の投資スタイルは言わずと知れた優良株のバイアンドホールドでこれはとても真似がしやすい。だが彼のリターンは運と実力の両方があって初めて達成可能だ。彼はお金と知識がありさらに1970-2000年頃の米国株の黄金時代を経験している。この時期は株価が経済成長に比べ伸びておらず割安でこの期間に継続して投資をしていれば誰でもよいリターンが得られた時代だった。

バフェット氏の優れているのは企業を見る目だと思われることも多いがそれ以上に彼は優秀なビジネスマンでディールメーカーなのだ。自身のネームバリューをフル活用し有利な条件での取引を引き出しレバレッジと金融派生商品によって好成績を上げたのが彼だ。彼の手法についてはBetting Against Betaという論文で詳しく解説されているが伝説的なリターンは保険業を活用しレバレッジを効かせ現物株だけでなく金融派生商品も使うことによって成し遂げられたものなのだ。これは現代や将来の世代にとっては再現不能なものだ。

一方イングランド銀行を潰した男として知られるソロス氏はより投機的でトレーダーとしての側面が強く特定のスタイルはない。手法としては世界情勢をよく見て市場や経済の歪みを分析して大きく賭けるものと言えるだろう。ソロス氏のリターンを真似するのは難しいかもしれないが不可能ではない。手法自体は再現可能なものだからだ。世界を知り機を待ち勝負をかける。トレーダーにとって大事なのはこの心構えだ。

少なくとも暴騰暴落や金融危機は現代でも何度も起きている。マーケットの不均衡や株価サイクルに合わせた売買ができれば高いリターンは得られる。オーソドックスなバイアンドホールド一辺倒でなく場合によってはレバレッジをかけて積極的に投機的取引をするという選択肢を頭に入れておきたい。そういった意味で私は志すべきはバフェットよりソロスだと思っている。

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