学者の経済予測があまりにも当たらないので経済学はよく役に立たないとか意味がないとか言われる学問の一つであるが、決して無駄な学問ではない。ここでは経済のモデル化と資源の分配という2つの観点から経済学の意義を考えてみる。
経済学の目的の一つは、経済的事象を正しく把握しモデル化することだ。経済学者はこれらのモデルを元に解説や予測をする。ミクロでは売り上げの予測や経済効果の試算、マクロではGDPの算出や国際収支の統計など、様々な定義を作り物差しにすることによって現状認識をして未来へ生かそうというのがモデル化の意図だ。経済学はこの時点で、事象を正しく認識できているか、作り出したモデルは現実と一致するかという2つの問題を抱えている。
まず経済という人・物・金・情報・時間がダイナミックに連動し予想や期待が行動に影響する巨大な事象を正確に捉えることは非常に難しい。気象や火山活動に地震など様々な自然現象だけでなく宇宙のことや生物のことなど人類にはまだわからないことも多い。経済もその一つだ。わからないからといってわかろうとせずほったらかしにしていては学問は発展しない。経済の根本であるお金のことでさえまだよくわかっていない。インフレは何故起きるのか、金利がマイナスになると経済はどうなるのか、通貨の価値はどうやって決まるのかなど、わからないことだらけだ。起きていることを理解するだけでもこれだけ難しく完全に解明するのは不可能にも思える。事象の認識とはかくも大変なものなのだ。
そしてそれをモデル化するのはさらに難しい。モデル化とは限られたパラメータを元に現象をシミュレーションすることだ。温度と湿度と気圧と気流と海流という比較的少ないパラメータからでも行える気象予報ですら外れることも多いのに、まだよくわかっていない経済をモデル化して予測しても当たるはずがない。経済予測が当たらないのには理由があるのだ。経済に関わるパラメータは何か?人口、教育、政治、貿易、法律、資源、天候、イノベーション、それ以外にも無数にある。どのパラメータを選んでどうモデル化するか、それだけでも人類の手には負えないように思える。さらに過去を正しくモデリングできたとしてもそれが未来でも正しいとは限らない。ゲームチェンジャーというものが存在するのだ。モデル化が容易でない上に不確定要素もあり、そのモデルを検証することも難しい。それは経済学は自然科学と違い実験ができないからだ。いつも条件が異なっているので過去に戻ってパラメータを変えて実験を繰り返しでもしない限り正確な検証とはならない。
加えて先にも述べたが生き物は情報を得れば行動も変化する。例えばバブルが起きるとわかっていれば人はその資産を買い集めるだろう。政策金利を予想しても中央銀行はその予想を知ってから行動することができる。モデル化に成功すれば人はそのモデルに沿って行動するようになるのだ。この予測が結果に影響を及ぼすというのは自然科学では一般に存在しない。そんな問題が出てくるのは量子力学ぐらいだろう。結果を知れば結果が変わる、情報とはそれほど重要なものなのだ。
モデル化というそれ一つをとっただけでも、認識の正しさ、パラメータ選び、モデルの正確性、予測が行動に与える影響といった問題が出てくる。本当に現象を正しく理解出来たら自ずとモデル化もでき予測も容易くなるがそれが出来たら今度はそのせいで結果が変わる。経済学は未熟ではあるが未来に干渉する可能性も秘めているのだ。
経済学には別の目的もある。経済学に課せられた使命と言っていいかもしれない。それは希少資源の最適な分配だ。全てのものは有限である。限られた資源の中でどうやったら効率が上がるのか。最大の結果を得るために最適な分配とは何か。それらを考えるのも経済学だ。
世の中に無限というものがあれば人類は無限に発展することができるが、残念ながらそんなものは存在しない。水、土地、空気、肥料、金属、エネルギーなど全てのものが有限だ。限られたものをどう効率よく使えるか。リカードが提唱した比較生産費説などはわかりやすい例だ。比較優位の原理とも呼ばれるこの概念は、簡単に言うと各々が他と比較して得意なものをやれば全体としての効率が上がるというものだ。経済人という考え方もある。経済的合理性のみを追求する個人主義的な人間という概念で、効率を求めると人はどう行動するのかを思考するのに便利なモデルである。このように、経済学とは生産性を上げるにはどうしたらいいのか考える学問でもあるのだ。
限られた資源をどう配分するかというのも経済学だ。需要と供給という経済学の初歩的用語は聞いたことがあるはずだ。価格と数量は需要と供給が均衡することによって決まるという考え方だ。この考え方は非常に汎用的で、これを応用した分析は多岐にわたる。均衡状態や平衡といった概念は経済学ではあらゆる分析に使われるツールだ。これらは資源の最適な配分を考える時に欠かせない。さらに資源の分配に意思決定という軸を追加したものがゲーム理論だ。こちらも様々な分野で応用されている。興味のある人はナッシュ平衡やパレート最適といった用語で調べてみるといい。
経済学には、限られた資源を使い生産性の向上を図ったり効率の追求をしたり、その資源の最適な配分の仕方を色々な角度から分析したりなど、そういった側面もあることがわかるだろう。特にゲーム理論はビジネスでも使われることが多く、経済学抜きにしても学ぶ価値は十分にあると言える。
最後に、経済的事象のモデル化と不足しがちな資源の最適分配という二つの切り口から経済学を見てきたが、その2点からしても経済学の有用性は十分にあると思える。確かにまだわからないことも多く予測などは話半分に聞くべきだが、だからと言って経済学が無駄ということにはならない。社会実験の許されない社会科学として、経済学にはさらなる発展を期待したい。
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