2016年8月6日土曜日

誰が持っている株を買うべきか?

個別株の安全性を見る指標としてはヒストリカル・ボラティリティやベータといったものがあるが、株式投資には人気投票やババ抜きといった側面もあるので今回は誰が持っている株かという点に注目してみたい。

使用したデータは日本取引所グループ発表の株式分布状況調査と投資部門別売買状況だ。株式分布状況調査とは年度毎の投資家属性別株式保有状況をまとめたものである。これで誰がいくら株を持っているのかがわかるが、ここには売買状況は含まれないのでこれを投資部門別売買状況で補正する。前年度の保有金額に年度分の買い越し・売り越し額を足したものを翌年度の保有金額と比べることによってリターンを算出した。保有金額が少なく扱いが曖昧な政府・地方公共団体は除いてある。

投資部門別リターン

投資部門別累積リターン


合計とは上場株式の時価総額で、そのリターンは概ね日経やTOPIXといった株価指数と一致する。合計はリーマンショックの起きた2008年の1年前から下落し2009年に一旦反発した後しばらく凪相場が続き、その後アベノミクス相場となり再び上昇し天井をつけた。その間、金融機関は市場より少し悪いがほぼ全体と連動したリターンを出しているので、金融機関保有株は中立的と言える。証券会社は保有金額が少なく境界的存在であるが、驚くべきリターンを得ている。下がる時は大きく下がるが上がる時はそれ以上に大きく上がる相場に左右されやすい旬な銘柄を多く持っていると推察できる。事業法人は上がりにくく下がりにくい、つまり売買をあまりしない安定的な株主で相場の影響を受けにくい株を保有していると思われる。外国法人はこの中で最もリターンが悪くあまりいい買い手とは言えない。個人は証券会社に次いでリターンがよくほぼ全ての期間でベンチマークを上回っていることから、個人投資家全体としては運用が非常に上手いと言えるだろう。

以上のことから、個人が多く保有する会社は安定的にリターンがよく、証券会社が多く保有する会社はよく上がりよく下がると言うことができる。逆に事業法人や金融機関が多く保有する会社は安定的だが上昇余地が少なく保守的だ。外国法人が多く保有する会社はリターンが悪く避けたほうがよいだろう。株式分布状況は会社のホームページで簡単に調べることができるので、個別株売買の際には参考にするとよいだろう。個人的な話だが、私が保有する株の大株主の一覧には何故かゴールドマン・サックスが名を連ねていることが多い。気が合うのだろうか。

もう一つ入手可能なデータがある。金融機関別の株式分布と売買状況だ。金融機関は、都銀・地銀等、信託銀行、生命保険会社、損害保険会社、その他の金融機関に分類されている。生保と損保の売買代金は合算されているので保有金額も合算し一つの分類とした。さらに下のカテゴリーとして投資信託と年金信託がある。これらは、都銀・地銀等と信託銀行のうちそれぞれの信託業務の運用分を集計したものである。年金信託に関しては売買状況がなかったので省略した。

金融機関別リターン

金融機関別累積リターン


一番上の合計とは全ての金融機関をまとめたもので、投資部門別の金融機関と一致する。この中で大きなばらつきが見られるのは投資信託とアベノミクス以降の生保・損保とその他の金融機関だ。投資信託は全体的にパフォーマンスがよく全期間の累積で見てもプラスリターンを維持している。生保・損保とその他金融はアベノミクス相場に乗り遅れたにも関わらず2015年度には全体より大きく下落しておりそれがリターン悪化の原因となっている。その他金融はリターンがかい離することが多く特徴的である。その他の金融機関とは信用金庫、信用組合、農林系金融機関、各種共済、政府系金融機関等であるので、これらの投資家が多く保有する株式は他と違った値動きをしやすいと考えられる。

まとめると、個人保有の多い株は時期に関係なくアウトパフォームしやすく、証券会社保有株は乱高下しやすいが高いリターンが期待でき、投資信託選定株は個人保有株には劣るが安定して好成績、その他の金融機関の株は相場とかい離した変わった値動きをする傾向があり、海外法人と生保・損保が持つ株はリターンが悪くアンダーパフォームする傾向がある。個別株に投資する際には誰が保有している株か、という点にも目を配るとよい。

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