2017年4月8日土曜日

シムズ理論には根拠がある

積極的な財政政策で物価を上げるという政治家にとっては夢のような話のシムズ理論。これは恐らく毒薬であるがその効果のほどについては十分な根拠がある。

ノーベル経済学賞受賞の経済学者である米プリンストン大学のクリストファー・シムズ教授らが中心となって主張している物価水準の財政理論(Fiscal Theory of the Price Level)は日銀の黒田総裁曰く、「シムズ理論は実証的な研究が行われていない」ので「現実的な政策論として有意義ではない」という。政策的には難しいかもしれないが過去を振り返ればシムズ理論的政策で物価が上がった例はいくつもあり黒田日銀総裁の主張は半分嘘である。

シムズ理論とはゼロ(とマイナス)金利下では金融政策が正常に機能せず中央銀行が無力になるので政府がインフレになるまでは増税しないと宣言し積極的に財政拡大をすることにより物価を上げることができるというものだ。そしてインフレになれば増えた債務はインフレで相殺されるので返済も容易だという。

黒田総裁の言う実証研究というのは積極財政による能動的な働きかけで適度なインフレを起こすという意味だと思われるがその意味で言えばそんなことをやった前例はない。無理にインフレを起こそうとしても悪いことしかないので誰もやらないのだ。だが積極財政による結果意図せずインフレが起きた例はたくさんある。つまりFTPLでインフレは起こせるがコントロールができないかもしれないということだ。

政府が信認を失えば通貨価値が下がりインフレになる。これは物質的裏付けのない通貨ならば当たり前の話で政府が無謀と思われる財政政策を行いそれが財政ファイナンスと見なされれば通貨は信用を失う。「思われる」「見なされる」という点が重要で実際に財政ファイナンスであってもみながそう思わなければ市場は中々反応しない。麻生財務大臣は「シムズ理論はヘリマネ」と言ったが中銀の資産購入もヘリマネ的側面があり違うのは配っている相手だけだ。銀行と投資家にお金を配るのはヘリマネではないが国民にお金を配るのはヘリマネなのか?経済とはこのようにいい加減なものなのだ。

財政政策でインフレが起こせるのは財政赤字を急拡大させた第一次世界大戦後のドイツや第二次世界大戦後の日本を見れば明らかだ。戦争で財政を悪化させた敗戦国は大抵急激なインフレに見舞われる。戦争をしなくても無鉄砲な財政政策でインフレは起きる。最近ではジンバブエがハイパーインフレになっている。要はシニョリッジ(通貨発行益)を財政ファイナンスに利用していると思われればインフレになるのだ。

財政政策なら物価の安定を脅かし無理やりインフレを起こすことは可能だ。逆に金融政策でインフレを起こすことは可能かもしれないが失敗例の方が目に付く。インフレターゲットはリフレではないで詳しく説明したがリフレ金融政策で経済と物価を長期トレンドに戻すことができたとしてもトレンド自体を変化させることはできない。資産購入をしても資産バブルが起きるだけで資産成長率や物価上昇率のトレンドは変わらないのだ。

シムズ理論には少なくともインフレを起こしうるという根拠はある。だが2年で2%の黒田理論にはそれすらない。金融緩和はデフレ脱却に有効と言える根拠がないからだ。政府と日銀はアベノミクス初期はこちらもまた根拠のないトリクルダウンという言葉を出してごまかしアベノミクス失敗が鮮明となってからは国債購入に加え株式ETFとREIT購入で政策をうやむやにしさらにマイナス金利とイールドカーブコントロール(YCC)で金融仲介機能の破壊に追い打ちをかけ市場を歪めている。

日銀は株とREITと国債を買い入れて金融危機の種を蒔いているだけだ。物価安定という中央銀行の使命を放棄し金融政策では変えられない物価トレンドに働きかけるというのは国民にとっては有害でしかない。シムズ理論に根拠がないと言うならば黒田理論には根拠どころか大義すらない。シムズ理論を有意義でないと思うなら自身が主導している黒田理論の無意味さにも気付いてほしいものだ。このままでは爆弾をこしらえて責任を取らず退任ということにもなりかねない。

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