2016年12月11日日曜日

デフレという嘘 ゼロインフレという真実

政府や日銀はデフレだと言ってその脱却に必死になっているがそもそも日本はデフレではない。インフレもデフレもしていないゼロインフレ状態というのが正解だ。そもそも物価変動は経済活動の結果なのであって原因ではないから景気が良ければインフレが起きるかもしれないがインフレにすれば景気が良くなるということはない。ゼロインフレーションの影響とその原因を考える。


上図はOECDによる2010年を100とした日本の消費者物価指数である。1960年からきれいな直線が続いていたが第一次オイルショックと第二次オイルショックでそれぞれインフレが加速するも沈静化、バブル期に再びきれいな直線に戻るもバブル崩壊後はほぼ100前後で推移している。なので日本の物価指数動向は大きく分けると戦後の安定期、第一次石油危機、第二次石油危機、バブルの安定期、ゼロインフレ期と5つに分けることができる。

ゼロインフレ期をもう少し詳しく見てみよう。まず注目すべきはグラフが垂直になっている部分だ。それは1989年4月、1997年4月、2014年4月でいずれも消費税が原因だ。消費税が直接的に物価を押し上げているのがわかるだろう。それからインフレはバブル崩壊後の1993-1994年頃に消えている。その後の変動を見てみると1998年10月から2002年2月にかけてデフレ、2007年2月から2008年9月にかけてインフレ、2008年9月から2009年12月にかけてデフレ、2013年3月から2013年12月にかけてインフレであったと言える。

二度ずつあったインフレ期とデフレ期をそれぞれ考察する。最初のデフレは1997年の消費増税で物が売れなくなった結果どうにかしてその影響がどこかに吸収され物価が増税前に戻ったというものだ。元に戻った物価は上がらず下がらず安定していたがリーマンショックの一年半ほど前からインフレが進んでいる。これは2005年から2006年にかけて為替が10円ほど円安に振れた影響ではないかと思われる。だが遅れてきた円安の影響が出始めたところで2007年半ばからは円高傾向になりそこでリーマンショックで需要が急減したのと2011年まで続いた円高を受けてデフレとなった。そしてアベノミクスで円安が始まったのとほぼ同時に一年ほどインフレした期間があったが消費税を8%に増税して消費者心理が冷え込み需要が減った結果物価は再び安定期に入った。円安は実は2012年末から半年程度と2014年後半と二度の波で訪れたが二度目の円安は物価には全く現れなかった。

消費者物価の推移から見て取れるのはサプライショックでインフレ率は上昇する(二度のオイルショック)、デマンドショックでデフレが起きる(消費税の3%から5%への引き上げ時やリーマンショックの影響)、必ずしもではないが通貨安には物価を押し上げる効果がある、という3点だ。これらの3点を踏まえて消費者物価指数を予測してみよう。現在の状況は1997年のデフレ時と瓜二つであるので単純に1997年4月以降のCPIを2014年4月と重ねてみたのが下図だ。無理やり上げた物価はいずれ元に戻るというのがこの予測の根拠だ。この予測が正しければ2020年頃にはCPIは再び101程度に下がっているはずだが2019年10月に消費税10%への引き上げが予定されているのでそこでCPIが+3程度上昇するだろう。増税後の影響がなくなる前に再び増税するケースというのは初めてなので不確定要素は大きい。

バブル後にインフレが消滅してからも物価が上がったり下がったりした時期はあった。だが継続的ではなく物価は変わることを拒否しているようにも見える。物価が安定していることの何が悪いのか?ゼロインフレの影響は大きく3つ考えられる。それは借金が希薄化されないことと賃金の抑制圧力と消費性向の低下だ。

インフレとはお金の価値下落であるので借金は時間が経つと相対的に軽くなる。インフレならば今の1万円より10年後の1万円のほうが価値が低いからだ。借金、特に民間債務ではなく政府債務はこれをあてにしている。インフレを前提に過大な借金をしてきたのでインフレが起きなければいずれ破綻してしまう。安倍首相と黒田総裁が必死に物価を上げて庶民を苦しめようとしているのはインフレにして債務を軽くしたいからなのだ。

賃金は売り上げの一部から支払われる。売り上げが増えても必要がなければ賃上げはしなくてもよいがそもそも売り上げが増えなければ賃金を上げようがない。物価が変わらなければ売り上げを増やすには量を増やすしかない。薄利多売の大量生産が好まれるのだ。だが量を増やすにも限界があるのでゼロインフレでは賃金に抑制圧力がかかる。だが賃金は労働需要と能力で決まる部分が多いのでゼロインフレだから賃金が上がらないということはない。現在は単純労働力は供給過多で専門性の高い労働力は不足している状態だ。単純労働は新興国や機械に代替され先進国で残るのは高度なスキルが必要な仕事だけだ。簡単にできる仕事と専門性の高い仕事で収入も二極化する。賃金はインフレの影響を受けるが労働力の需給や専門性の影響がより大きい。

インフレであればお金より物を持っていたほうが得だ。お金の価値は目減りするが物の価値は変わらないからだ。物を買うから物価が上がる、物価が上がるから物を買うといった具合だ。だがインフレがなければ今買うよりも後で買ったほうが得になるのだ。待てば待つほどいいものが安く買えるので本当に必要なもの以外は急いで買う必要がなくなる。よって値下がりするのを待ちその間は貯金をするようになる。これがデフレマインドの正体だが消費者側からすればいいものを長く使いたいというのは当たり前ですぐに壊れる車を数年で買い替えるような生活のほうが異常だ。ゼロインフレは経済が成熟した結果ではないのか。

では何がゼロインフレを引き起こしているのか?直接的な原因は供給過多だ。少子高齢化社会と貧困世帯の増加による需要の減少で供給能力が過剰になり物が余っているのだ。物が余っているのは豊かな社会と思うかもしれないが実際に起きているのは富裕層の搾取だ。持つ者が持たざる者に商品を作らせ売りつけている。所有者が偏っているのだ。持たざる者の可処分所得は減少し持つ者は機械化IT化効率化で供給能力を高めている。富の偏在こそがゼロインフレの真の原因なのだ。所得の再分配がきちんとできていればそれはインフレ圧力となる。

消費税の増税は消費を低下させるデフレ要因だがそれはどこの国でも同じだ。最近騒がれるようになったのは中立金利、別名自然利子率の低下だ。中立的な金利が低いからインフレ率も低くなるという理論だ。だがこれも同時に起こっている現象の説明だけでインフレの起源には迫り切れていない。どうしてインフレが起きるのか。そこの理解が進まなければ金融政策は頓珍漢であり続けるだろう。そこで日本の経験からインフレと関係しているかもしれない賃金、不動産価格、銀行という3つの要素について少し考えてみる。

賃金とインフレは関係がありそうだがインフレなのに賃金が上がらないところもあればゼロインフレでも賃金が上がっているところもあるので日本のように賃金が上がらないのをデフレのせいにするのはお門違いだろう。賃上げの理由もないのに上げろというのは馬鹿げている。上の図はOECD発表の2015年USDで換算した平均年間賃金が横ばいとなっている「稼げない人たち」の集まりだ(スイスを除く)。スイス以外はどの国も賃金はOECDの平均未満で絶対額も少ない。日本以外の国はインフレで物価は上がっているのでインフレ率と賃金は関係がなく単に生産性が低く効率が悪い国の給料が上がらないだけだと言えるだろう。日本は借金大国だがイタリア、スペイン、ギリシャ、ポルトガルも政府債務問題があり借金が多いというのは注目に値する。メキシコだけは例外的だが債務が多いと生産性が下がるかもしれないというのはいい研究テーマになるかもしれない。逆にスイスはゼロインフレだが高所得で収入も伸びているという稀有な国だ。各国の産業構造や政策を調べれば賃金を上げるヒントが隠されているかもしれない。メキシコ以外はリーマンショック後にインフレが鈍化しているのも興味深い。

インフレはバブル崩壊後に消失した。バブルで問題になったのは地価の高騰と銀行の不良債権だ。バブル前後の変化を調べていけばインフレについて何かわかるかもしれない。まずは不動産価格を見てみよう。国土交通省の土地総合情報ライブラリー(http://tochi.mlit.go.jp/kakaku/shisuu)に不動産価格指数というものがある。データが2008年以降と少ないがアベノミクスの影響が如実に表れているのが見て取れるので転載させてもらう。

これらは地価の全国平均を住宅と商業用不動産でそれぞれ指数化したものだ。住宅ではマンションのみ、商用では店舗とオフィスとマンション・アパートのみが上昇しているのがわかる。これは言い換えれば投資用物件のみに資金が流れ込み価格が高騰していると言える。投資用不動産に資金供給したというのがアベノミクスの成果なのだ。住宅価格とインフレ率には関連がありそうだがアベノミクスが働きかけたのは投資用と商用不動産のみで住宅価格には全く影響がなかった。儲かったのは土地転がしだ。もう少し長い時系列のものを見てみよう。土地代データ(http://www.tochidai.info/)の地価データとOECDの消費者物価指数の推移を合わせたものが下図だ。

バブルが崩壊してインフレが消え去ったのがよくわかる。地価が下がり元通りになるのに10年程度かかりその後は地価も物価も上がっていない。インフレはどこに消えたのか?理論的には地価は用途が増えたり需要が増えたりすれば値上がる。人口が増えたりGDPが増えたりすれば地価は上がるはずだ。逆に空き地が増えたり生産性が上がったりすると地価は下がる。GDPは横ばいで人口は減り空き家が増えている日本では本来地価は下がるはずである。地価が下がらないことで取引がなくなり資産が固定化されそれがゼロインフレにつながっている可能性がある。土地が高過ぎると売買が成立しなくなり現状維持となる。土地の売買がなくなると土地の自由な利用が妨げられ用途は限定的となる。土地が手に入らないので土地を貸している所有者は儲かるが経済は停滞する。借り手がいなくても安く売りたくないと空き家を放置する。バブルはまだ終わっていないのかもしれない。

これは不動産売買の流動性を高めればインフレ圧力となる可能性があるということだ。土地が自由に売買できれば使えない土地は格安でそれに合った用途で利用できる。使わない使わせない土地がたくさんありそれを放置しているのが問題なのだ。これは居住していない不動産の固定資産税を大幅に値上げすることで解消できる。役に立たない土地も原因は国の政策だったりする。健全なインフレに必要なのは金融政策ではなく不動産関連の規制緩和ではないのか。壮大な実験となるがこれは試すことができる仮説だ。

バブルでもう一つ影響が大きかったのが銀行の不良債権問題だ。返済能力のない相手にお金を貸すことはいつだって問題だが日本の銀行は審査よりも担保で景気が悪くなれば貸し渋り・貸し剥がしなどとかく評判が悪い。だがそれらはバブルの後遺症である可能性がある。バブル後の銀行の不良債権処理や新たな規制や銀行再編の過程で信用創造の機能が失われていたとしたらそれはゼロインフレにつながるかもしれない。お金が増えないのでお金の価値が高まるということだ。貸さない銀行を貸す銀行に変えられれば何か変わるかもしれない。

日本はゼロインフレでありデフレではない。供給過多の状況で金融緩和を行っても一部の資産でバブルを引き起こすだけなので有害だ。需要を伸ばすには所得を増やしたり人口を増やしたりするしかないが今の日本でそれは無理だろう。生産性を上げ賃金を上げる。不動産取引を活性化させ土地の適正利用をする。銀行に貸し出しをさせる。バブル前後の社会の変化を研究しインフレへの理解を高めるのが政府や日銀の言うデフレ脱出への近道ではないのか。

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