2021年1月24日日曜日

過剰流動性の副作用で株式の債券化

 10年以上続く金融緩和で市場は完全に変質してしまったがいくら金利を下げ債券を買い取りお金を配っても限界というものは存在する。今後も中央銀行が緩和をやめるとは思えないが異常な金融政策の弊害は様々なところに表れている。今回は株式の限界について考えてみたい。

リーマンショック以降に中央銀行の目標が市場を喜ばせることになってしまったのでそれに抗うのは難しいが金融緩和をやめられなくなってしまったことは近年最大の失策であろう。緩和的金融政策で得をするのは債券を発行できる会社と株主と経営者だけだ。それらは言わば既に持っている人たちで困っている人たちではない。不当に安くお金を借りられる人がいる一方でお金を貸してもらえない人には恩恵はない。株価が上がると資産家は儲かるが貧乏人は困ったままだ。過度の緩和は助けが不要な人たちのみ助けて本当に困っている人たちを蹴落とすという格差を助長する面があるのだ。

緩和を続けたことでまず健全な価格形成が行われなくなった。投資から「売り」という選択肢が消えて何を買うかというゲームになった。テスラやビットコインのようなものが好まれ買いが殺到しても限られた資金しかない空売り勢が参加することは難しい。どんなに金融資産が高値であっても無限にお金を増やせる中央銀行には勝てないからだ。いくら売っても買いに飲まれるのであれば売るだけ損をすることになる。こうして売りで儲けようとする人はいなくなる。

価格変動が一方通行になってまず限界を迎えるのが債券市場だ。マイナス金利というものもあるが基本的には債券利回り=インフレ率が下限となる。金利がそれ以下になると債券を保有していても損しかしなくなるのだから当然だ。先進国のインフレ率はおおむね1%程度なのでこれが目安となる。各国の債券利回りがその程度であることを考えると債券市場は既に限界に達していると言っていいだろう。

実質債券利回りがゼロとなって困るのは確実な収入がほしい長期運用系、特に保険と年金という機関投資家だ。確実に得られる収入がなくなったので他に探す必要が出てくる。彼らは利回りを追求せざるを得ない状況に追い込まれているのだ。国債やソブリン債では実質リターンを得られずジャンク債はリスクに見合わない高値で売られているのでもはや債券市場で買えるものはない。そうなれば株を買うしかなくなるのだ。

選択肢がなくなったので株を債券的に考えざるを得なくなる。そうなった時にまずは配当を金利収入と比較することになる。ダウが2%、S&P500が1.5%程度の配当なのでもう少し上昇余地があるだろう。企業は利益の全部を配当にしているわけではないので配当利回りが1%でも内部留保が増加する分債券より株式のほうが魅力的ではないか。配当性向を50%として利回りが1%になる水準はPER50倍、つまり現在の2倍ぐらいまでの株価であれば株式に優位性があるということだ。金余りが続けば配当利回りが1%程度になるまで株が買い進められても不思議ではない。

そこから先は理論的な限界として株式益回りが1%というものがあるがさすがに変動率の高い株が債券と同程度のリターンとなることはないだろう。その水準はPER100倍となるがもちろん利益の全部を配当にするわけではないので配当性向が50%ならば配当利回りは0.5%、残りは値上がりの含み益ということになる。長期勢には現金収入が必要なのでこれは受け入れがたい。PERが50倍程度であれば配当1%、含み益1%が期待できるのでやはりそのあたりが現実的な限界だろう。

過度な低金利が続けば債券で利益を得ることができなくなり株に投資せざるをえなくなる。そんな環境であれば配当利回りが1%程度になるまで株式が買い進められることはおかしなことではない。日経平均の指数ベースでの配当利回りが1.4%なので、日経が4万円でも驚きではないということだ。それは現在の配当性向であればPER41倍だが配当を1%払っても1.44%会社の資産が増えるのでやはりそれでも長期的には債券より魅力的だ。資産バブルだとしても株式には優位性があるので全額現金化など極端なことはせず一定割合で保有し続けるべきだ。

0 件のコメント:

コメントを投稿