2022年1月23日日曜日

オーストラリアは法治国家か?ジョコビッチ国外退去騒動を考える

 テニスのオーストラリアオープンに参加しようとしていたジョコビッチ選手の査証が取り消され国外退去処分となったが果たして豪政府の対応は適切だったのか?どちらがどのようなルールを破ったのか考えてみたい。

オーストラリア政府は「ルールはルール」と言ってこの件を正当化していたがどちらにも間違いがありこの件は非常に論点が多い。まずは騒動を時系列で追っておかしな点を見つけていく。問題の最初はジョコビッチ選手の入国が拒否されたことだ。ワクチン免除の医学的証拠を提出できずビザを取り消されたからだそうだがこの時点で何かがおかしい。本来ビザの発給手続きと入国審査は違うものだ。もし書類がなかったのなら何故そもそもビザがOKとなったのか?ビザが発給されている時点で問題はなかったはずではないか。ジョコビッチ選手が飛行機に乗っている間にオーストラリア政府の中で何かが変わったのか。入国基準が変わった結果として査証が取り消された疑いがある。

そこでもう一人のケースが参考になる。チェコの女子テニス選手レナータ・ボラチョーバ(ボラチョバ)の場合だ。彼女はジョコビッチ選手より一足先にワクチン免除で入国を許可され全豪オープンでプレイしていた。ところがジョコビッチ選手のビザが取り消されると同時に彼女のビザも取り消しとなり参加途中で国外退去となり大会を去ることとなった。同じ境遇の人が先に手続きを済ませ問題なく滞在していたのに突然追い出されている。このことから考えるとオーストラリア政府がいきなり方針を変え、その整合性をとるためにボラチョーバ選手も処分したのではないか。すなわち、ジョコビッチ選手の入国直前になって建前はともかくオーストラリア政府は「ワクチン未接種者は医学的免除であっても入国を認めない」という方針になったのではないか。これならこういった対応の納得はいく。

そもそもジョコビッチ選手の全豪参加は未定だったようで豪テニス協会と協議の上ワクチン免除なら出場可能と判断した結果オーストラリアに向かうことにしたようだ。ビザもあり、主催者も出場可能と判断した上での入国だったのだ。医学的免除の書類が必要だったのがビザ審査時なのか入国審査時だったのかはわからないがどちらにせよ必要なものは用意していたのではないか?急転直下のビザ取り消しに法的措置で対抗したジョコビッチ選手は一旦勝ちを得る。査証の取り消しは無効になったのだ。だが理由は申し開きに十分な時間を与えなかったからだそうでそういうルールを守らなかったからだそうだ。なぜルールを破ってまで取り消しを急ぎたかったのか。豪政府の最初の試みは失敗に終わる。

ここで新たな事実が発覚する。ジョコビッチ選手のコロナ感染と渡航履歴の虚偽記載が明らかになったのだ。コロナ陽性発覚後にイベント参加している写真も確認され、非難されることとなった。ジョコビッチ選手の新型コロナ感染は二度目で、12月というワクチン免除に都合のいい時期に罹患していることからこれは捏造ではないかと疑う声もある。セルビアという小さな国とそこの大スターということを考えるとあり得ないことではないと思ってしまう。渡航歴の虚偽については代理人が書いたということで故意ではないと言って謝罪もしている。

オーストラリア政府はさらなる手を打ってくる。ビザの再度取り消しだ。ジョコビッチ選手は直ちに訴えに出るも今度は裁判所も適法として査証は取り消された。かくしてジョコビッチ選手は国外退去処分となったわけだがどうも取り消し理由が腑に落ちない。ビザ取り消しに動いたホーク移民相によると「地域社会へのリスクを合理的に判断」した結果の取り消しだそうだ。医学的免除や渡航履歴でNGになったわけではないのか?権限と法的根拠はあるのだろうがそんなよくわからない曖昧な理由で執行できるのか。未接種者がいては国民への示しがつかないということか。ジョコビッチ選手は損害賠償を求めているらしいがその話は置いておこう。

一連の騒動を見ていくと少なくともルールの運用、対象者の素行、ワクチン義務化の是非という3つの論点がある。ルールはルールだが自分たちに都合よく変えられるのもルールだ。古くはスキー競技のルール改定から最近では強引なEV化など欧米では自分たちが優位になるルール変更を平気で行う。オーストラリア側はビザの発給、医学的免除不可による性急なビザの取り消し、大臣の働きかけによる二度目の取り消しと3つのアクションがあったがそのどれにも恣意的なものがあるように思う。事前審査で認められたはずの査証を空港で正当な手続きを経ず取り消し、それが無効となっても政府主導で再び取り消す。ルール破りも行っているがそれは司法に修正されている。運用より恣意的な方針変更に問題がありそうだ。オーストラリアはワクチン接種強硬派で、反ワクチンではないが有名人で未接種を公言しているジョコビッチ選手を見せしめとしたかったのではないか。

次にジョコビッチ選手自身の問題についてだが、素行があまりよくないのは有名であった。だが今回に限っては法的に問題なのは渡航履歴の虚偽記載のみだろう。コロナ感染歴を捏造したのであれば国家ぐるみの問題だろうがそこは追及されていない。医学的免除が直前の新型コロナ感染によるものとすればそれも認められたのだろう。倫理的に問題なのは陽性後のイベント参加やマスクをしないなどであるがこの部分だけを見て「反ワクチンでコロナ軽視」「豪政府の判断は妥当」とまでは言えないだろう。法的手続きの問題と個人の印象を混同してはいけない。倫理的に問題があっても法的に問題がなければOKとされるのが法治国家だからだ。

そもそものルールが正しいかというのも法治国家とは別問題だ。間違ったルールだからといって破っていいことにはならないしおかしなルールであれば立法府に変えるよう訴えればいい。日本では大麻問題でありがちだがおかしいと思うなら変えてもらえばいいのであって破ってはいけない。ワクチンの義務化がオーストラリアのルールであるのでその妥当性はともかく従うべきではある。欧米は自由と言われるがワクチン強制の流れを見るに義務化まではしない日本のほうがよっぽど自由だろう。ロックダウンはできないが「お願い」である程度の効果があり、自発的にマスクをつける人も多い日本の民度はとても高いと思う。

最後に仮定の話をしてみる。もしジョコビッチ選手が何のミスも犯さず模範的な行動をとり手続きの不備もなかった場合、彼は全豪でプレイできていただろうか?コロナ陽性が事実で、常にマスクつけて自己隔離も徹底して、医学的免除でも問題なく、渡航履歴の記載にも間違いがなかったとして、ジョコビッチ選手がオーストラリアオープンでプレイしていた未来はあっただろうか?私はなかったと思う。ワクチン未接種である限り、「お前の態度が気に入らない」として大臣の鶴の一声で結局査証は取り消されていたのではないかと思う。ビザの取り消しは世論で動いた人治主義的なようにも見えるが、ボラチョーバ選手への仕打ちを見るに政府のワクチン接種への強硬さを見せつけるために事前に計画されていたのではないのかとも思ってしまう。真相は闇の中だがこの騒動に勝者はいないだろう。

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