信用取引残高と空売り集計を見ると興味深い兆候がある。それらのシグナルによると近いうちに株価は大幅に下落することになる。物事はいつもデータ通りに行くとは限らないが信用取引はレバレッジをかける分市況に敏感で初期に兆候が表れやすいことから注目に値するだろう。
過去記事の次の金融危機はいつ来るのかでは3つのデータを用いて金融危機の時期を予測したがそれらは外れてしまった。それらは過去との類似性に着目した分析だったが日銀の株式ETF大量買入れによって市場が変質してしまったことで信頼度が下がってしまったようだ。よって今回は信用取引データを用いてシグナルという観点から分析してみる。
まず信用取引の合計売残高と買残高を見てみよう。基本的に株数と金額は連動しているが時々乖離することがある。それらを見ていくと合計売残高枚数が金額に比べて多い時は買いサイン、合計買残高枚数が金額に比べて少ない時は売りサインとすることができる。強い買いサインが出ているのは2002年から2005年にかけてと2009年から2013年にかけての2回でそれらはいずれも株価上昇中ないし上昇前に表れている。売りサインは少しわかりにくいが2006年頃と2007年頃、それから2015年半ば以降はずっと出ている。売りサインの精度がよくないのでもう一つ自己貸株のデータも参考にしてみる。
自己貸株とは証券会社が自己で行っている貸株のことでこちらは残高枚数が金額の上下に乖離している。こちらは枚数が上方に乖離=枚数が金額に比べて多い時は買い、枚数が下方に乖離=枚数が金額に比べて少ない時は売りと見ることができる。買いサインの時期はあまり変わらないが売りサインは2005年後半から2006年前半にかけてと2007年頃、それから2017年に点灯している。自己貸株の売りサインの精度は合計買残高よりは上だがアベノミクスにおいてはあまり参考にならない。そこで最後のデータ、空売り集計の売買代金を見てみる。
空売りには価格規制のあるものとないものがある。詳しい説明は省くがそれらを並べると価格規制ありの空売りが価格規制なしの空売りと比べて大きく増えていれば買い、大きく減っていれば売りと大雑把に見ることができる。だがこれでは株価サイクルはわかっても売り時はわからない。そこで価格規制ありの空売りの急上昇時に着目してみる。するとそれらは2007年末、2013年末、2014年末、2015年8月、2015年末、2016年末、2017年末あたりであるがそれらの時期の株価を見るとリーマンショックの前、2014年初の下落、2015年8月のチャイナショック、2016年初の下落と調整の前に表れていることが多い。2014年末、2016年末と騙しはあるが相場高騰から下落に転じた時のサイン出現率は特筆すべきだ。信用残高の売りサインが見逃していたアベノミクス以降の暴落を全て当てているのも特徴だ。
信用合計買残高、自己貸株、価格規制ありの空売りと3つのデータから見て近い時期に大き目の調整がありそうだと言える。株式時価総額、株価指数、USドル円がマクロ指標なのに対して今回のデータは統計ではあるがミクロ指標に近い。レバレッジがあり境界にある信用取引ならではの知恵というものがあるかもしれない。2017年株価は上昇したが上がっている分下げる余地も大きいので相場の状況には注意したい。
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